光軸が平行かつ、光軸と基線が直交するように撮影した2枚の写真を用いて、写真間で対応付けられた点Pの座標を推定する(2視線の交点の座標を計算する)「2視点三角測量」(two-view triangulation) の状況を考える。最も古典的な写真測量だ。
各写真における点Pの写った位置の観測誤差が、互いに独立で同じ分布(平均:0 かつ 標準偏差:σ )に従うと仮定したとき、光軸に平行な奥行き方向の分散は基線長に依存する。一方で、光軸と直交し撮像面に平行な2つの軸方向(撮像面の横方向、縦方向)の分散は基線長に依存しない。
これらは、点Pの座標を求める式(2視線の交点の座標を表す式)に誤差伝搬の法則を適用することで導かれる。そのように理論的に導かれた分散は、Abdel-Aziz (1982)などに示されており、その平方根である標準偏差は次式の通りとなる。
ただし、後者については本当は、点Pの撮像面の横方向・縦方向の座標に依存する。ここでは簡単のため、点Pの撮像面の横方向・縦方向の座標が基線の中点のそれらと一致する場合を考えている。
基線長が短くなると、奥行き方向の精度が劣化することは、両目で遠くの物までの距離を掴みづらいことからも感覚的に理解できるし、「基線が短いと、両カメラの視線を作図したとき、その交点付近が『奥行き方向に長いX』になって、奥行き方向の位置の判読が難しくなるでしょう?」というイメージの説明でも一応納得がいく(本当は、観測誤差があるのは撮像面上なので、一様な太さのペンで描いた視線の太さを誤差とみなすのは厳密でないと思われる;最下部の図のように説明する方がよいはず)。
しかし、基線長が短くなっても、奥行き方向でない方向の精度は変わらないというのは、実は私には不思議であることに最近気づいた。確かに理論的にはそう導けるのだが、感覚的にはしっくりきていなかった。数日考えてようやく作ったイメージの説明は、「基線が短いと、両カメラの視線を作図したとき、その交点が『奥行き方向に長いX』になって、奥行き方向の位置の判読に誤差が生じても、両視線の向きの違いが少ないわけだから、撮像面に平行な方向の座標の判断には影響がないでしょう?」というものだ。
なお、図を使えば、イメージをもっと明解に説明できる。下図では、真の投影位置pの左右に、投影位置を観測誤差εだけずらした2点"p-ε", "p+ε"を描き、それら3点を通る両カメラの視線の交点を使って、奥行き方向・撮像面方法の推定位置の変動幅を説明している。
今回のように基本的な内容でも、理解したつもりになってから何年も経って、理解が浅いことに気づいたりする。数式で導くだけで満足して、感覚的な理解を怠っていたことに気づくこともある。写真測量は3次元空間の話なのだから、本来は理論の代数的理解と、その幾何学的な意味の感覚的理解が、いつも車の両輪として伴っているべきなのだろう。