空中測量研究室の技術ノート【2冊目】

山口大学の1研究室による研究メモです。UAV写真測量, ドローン測量, フォトグラメトリ, SfM/MVSなどと呼ばれる技術の情報があります。

【GNSS勉強メモ】SNRとCNRの違いは何か

GNSSの信号の強度あるいは品質の指標として使われる、SNR (Signal-to-Noise Ratio; S/N)CNR (Carrier-to-Noise Ratio; C/No)の違いは何だろうか。

私が少し調べた限りでは、

  1. 人により、同じ意味で使われることもあるようだし、定義が異なることもあるようだ。
  2. Richardson et al.(2016)によると、SNRとCNRはともにコード変調された信号における信号パワーとノイズパワーの比であるが、SNRは受信機内の相関器で計算されるもので、CNR(C/Noと表記されることもある)は(増幅前の)受信アンテナにおける値とのことだ(定義αとする)。信号もノイズも、アンテナと相関器の間で同じくらいの倍率で増幅されるので、CNRとSNRの値はほぼ同じと考えて良いとのこと。
  3. Richardson et al.(2016)に引用されているLangley (1997)によると、C/Noは Carrier-to-Noise density Ratioの略で、ベースバンドの1 Hz帯域幅における搬送波のパワーとノイズパワーの比とされている。そして文脈を見ると、どうやら復調後に評価するようだ。CNRの名前からするとこちらの定義の方が納得がいく(定義βとする)。
  4. IGSによるRINEXフォーマットの定義では、5.7節のTable 12などを見る限り、S/NとCNRは同義に使われている。そしてObservation codeがSnaの形式になっているデータは、搬送波の観測がある限り、搬送波に関するものつまり上記βに対応するもののようだ。例えば下図の例では、データ部の4列目がこれに該当し、最初のエポックにおけるG21のCNRは45だ(単位はおそらくdBHz)。なお、RTKLIBのRTKPlotではRINEXファイルのこの列をそのままSNRとして表示しているようだ(RTKPlotとテキストエディタで同じ.obsファイルを開いて確認)。受信機を制御するアプリDrogger GPSでリアルタイムで見られるCNRや、NMEAログに記録できるCNRがこれ(RINEXファイルで見られるCNR)と同じかどうかは未確認
  5. RINEXファイル (ver.3.02)の冒頭部分の例
  6. 定義βにおけるCNRは、マルチパスにどのように影響されるのだろうか。直達波に、波形が崩れた反射波が重なっただけなら、ノイズが増えたことになってCNRは低下しそうだ。一方、直達波に、波形を保った反射波が重なってしまったら、位相の関係によって搬送波の振幅が見かけ上大きくなったり、小さくなったりするはずだ。従って一概に、CNRが高ければマルチパスの影響が小さいとも言えないように思われる。以前の記事でも引用させてもらった鈴木 (2016)によれば、「マルチパスの影響によってその値が落ち込んだり、また逆に増幅されたりなど値が大きく変動する。しかし、マルチパスが存在しないときには、C/No 比は衛星の仰角による。 」とある。またこちらの記事によると、マルチパスは誤差のうち比較的高周波の変動成分の原因とみなされるようだ。つまり、例えば各衛星のCNRが仰角の滑らかな関数のように推移し、小刻みで大きな変動がなければ、マルチパスの影響は少なそうと言えそうだ。