空中測量研究室の技術ノート【2冊目】

山口大学の1研究室による研究メモです。UAV写真測量, ドローン測量, フォトグラメトリ, SfM/MVSなどと呼ばれる技術の情報があります。

技術ノート「2冊目」について

技術ノート【1冊目】を振り返る

アメブロ空中測量研究室の技術ノート」を書き始めてから、早くも5年半が過ぎた。

書き始めた1つの目的は、私の研究室の研究活動の成果を、関心のある方に直接届けることで、研究活動の工学的な意義を高めることだった。

私は10年ほど前には任期付きの身で、学術論文を国際誌に載せることに躍起だったが、徐々に学術論文の査読システムの精度・効率性に限界を感じるとともに、研究者が論文出版ビジネスにいいように使われている感を強くして、別の目標を探すようになった。

そこで思い出されたのが、大学院生時代に教わった「役立たなきゃ意味がない」という価値観だった。もし工学の研究が、人間社会の役に立つ知識や技術を生む活動ならば、良い工学研究とは有名誌に載った研究でも多額の研究助成を受けた研究でもなく、成果が実用された研究ということになる。理想を言えば論文は、役に立つ成果を得たときにこそ書くべきで、執筆が競技やルーチンになってしまうことは、サバイバルのためには致し方ない場合があっても、本末転倒だ。助成などの研究費の獲得が業績とみなされることに至っては、研究する前に業績を得るわけだから、時間的にも逆転している。

昔の私は、「社会の役立つ」という言葉の曖昧さや、学問なのに社会に迎合する感じに、少しなじめなかった。でもあるとき、技術開発とは崇高なものではなく、太古から続く人間の本能的な活動の1つなのだと割り切ることで、この価値観がしっくりきて、成果の実用化を目標に据えるようになった。思えばUAV写真測量という研究テーマも、自身の興味よりは、成果の使ってもらいやすさを意識して選んだものだ。

そして成果や研究活動で得られたノウハウを、実務に関わる技術者や研究者に直接共有するための媒体として、技術ノートを書き始めたのだった。もちろん査読は経ておらず研究業績にはならないが、学術論文と違って

  1. 論文を読む暇のない方にも届きうる
  2. 論文のように多大な労力をかけずに素早く書ける
  3. 論文にはなりにくいが役立つと思われること、例えば苦労して理解したことや、躓いたポイントなどノウハウも共有できる

というメリットがあり、大学で研究させてもらった時間を、効率よく社会に還元できる媒体に思えた。

また成果の紹介だけでなく、UAV写真測量の基本やソフトウェアの使い方などの解説もコンテンツに加えることで、研究室の学生向けの説明資料研究室の広告塔という役割も持たせることができた。

私の更新間隔は不安定で、記事も必ずしもわかりやすく書けたわけではなく、図すらもない記事も多かったが、有難いことに全国の技術者・研究者の方々に、記事が役立ったとの声や研究費の支援、協働の機会を頂けた。

現時点ではまだ、役立っているのはおそらくUAV写真測量技術やソフトウェアの使い方の説明であり、研究成果が実用されるという目標には到達できていないと思われるが、技術ノートの工学的な意義は十分に感じている。

書く時間がない → より日常的な「研究メモ」へ

1冊目には、走り書きの記事もあったが、論文と同じような密度で時間をかけて書いた記事が多かった。しかし、他の研究者と同じく私も、年々忙しくなってきてしまった。今後も継続的に書き続けられるとしたら、腰を据えて書くものではなく、より日常的な自分向けの研究メモに近いものになりそうだ。いま勉強していてよく分からないこと、ついに分かったこと、試したプログラム、躓いた点などを、走り書きした記事だ。

そうした記事ばかりになれば1冊目と雰囲気は変わるが、工学的な意義はあるだろう。私自身、そうした記事に日々助けられている。私も研究の過程で、多くの人が躓く点でで躓いたり、誤解しやすいところを誤解したり、しかし大学だから許されるような時間をかけて、いつか乗り越えたり、理解を深めたりする。そのような過程を共有することで、大学の研究者として勉強させてもらった時間を社会によりきちんと還元することができるだろう(上記のメリット3)。たとえ記事の完成度は低くても、他に情報がなく困っている人には役に立つ場面があるはずだ。

そこで心機一転、主に日々の研究メモとしての「2冊目」を書き始めることにした。

特に最近は、プログラムや数式を使って書きたい場合も増えているので、そうした記事を書きやすそうなはてなブログを新たに利用させていただくこととした。